東京高等裁判所 昭和29年(う)2097号 判決
被告人 近藤一二
〔抄 録〕
同第三点について。
原判決が司法警察員岡富栄作成に係る昭和二十八年十月四日附実況見分書(附属図面及び写真を含む)を証拠として挙示していることは所論の如くであるが右の実況見分書については原審において被告人及び弁護人においてなんら異議をも留めることなく、これを証拠とすることに同意したものであり、且つ元来実況見分は司法警察職員が犯罪の行われた場所その他捜査に関係のある物等につき管理者所有者等の承諾を得て任意にその実況を把握する目的をもつて施行されるものでありその目的は検証と異るところはないのであるから見分書はその作成者が五感により認識した事物の状態を客観的に表現し記載することをもつて本旨となすべきことは所論の如くであるけれども、事実関係を明白にするため見分者が現に経験した事実に基く推理判断を記載したからとてこれを違法視するのはあたらない、ひるがえつて本件実況見分書を調べてみるのにその記載はいささか粗笨に過ぎるそしりは免れ難く且つ諸所に判断的語辞が散見されるのであるが、その判断的語辞はいずれも見分者が現実に認識した事実に基く意見、判断であり、単なる憶測、想像とは認め難い。従つて右実況見分書の証拠能力を否認し原審のこれが採証を非難する論旨は採用できない。次に論旨は原判決が採証している昭和二十八年十月二十日附領置調書の記載によつては証拠物が特定されないのに拘わらず、これを証拠物として採証しているのは違法であると主張するのであるが、なるほど右領置調書の品目欄には単に「放火材料の焼残品と認められる一切」一包とあるのみで物件の個々の品名の記載されておらないことは所論の如くであるところ、原審が右領置調書を証拠として引用しているのは固より証拠物としてではなく証拠書類としてであり、右の書面は小岩警察署司法警察員中山清市が昭和二十八年十月二十日原判示高橋良の任意に差し出したものを同警察署において領置した旨の書面であつて作成者司法警察員巡査中山清市の署名押印があり、且つ原審においては被告人弁護人はこれを証拠とすることに同意しているのであるからこれが証拠能力に欠けるところはないものと解すべきである。右領置調書の品目欄の「放火材料の焼残品と認められる一切」一包というが如き記載は固より適切とは認め難いけれども、検察官のこれが立証趣旨及び原審の採証の趣旨は原判示平和保育園の管理者高橋良より同人が本件放火材料の焼残品と認めた物件一包を小岩警察署に任意差し出したという事実を明らかにし間接に原判示放火の事実を立証しようとするものにあるものと察せられ、これと原判決の挙示するその余の証拠とを綜合して原判示事実認定の一資料としてこれを採用することは必ずしも意味のないことではないから原審がこれを採証したことを非難する所論はあたらない。それゆえ各論旨はいずれも理由がない。